旧優生保護法は違憲、最高裁判決とその反響 1
最高裁は,6年以上にわたる旧優生保護法の一連の訴訟について次のように結論づけた。
l 強制不妊手術は憲法13条(個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利)と14条1項(法の下の平等)に違反するものであった
l 国の「除斥期間が過ぎたため訴えは無効」とする主張は信義則に反し、権利の濫⽤として許されない
l 国は原告に賠償をする
最高裁判決を受け,国は,強制不妊手術の被害者の救済に向けて,ようやく動き出している。2024年7月9日,国会議員は,「優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟」を立ち上げ,被害者の救済を進めるための新たな法律を検討し始めた。17日には総理大臣が原告に謝罪。29日,内閣府は「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた対策推進本部」を設置し,優生思想及び障害者に対する偏見や差別の根絶に向け、これまでの取組を点検し、教育・啓発等を含めた取組を強化することにした。
国会議員や政府は被害者の救済と,優生思想及び偏見・差別の根絶(以下「優生思想の根絶」) を同時に行おうとしているようだ。しかし2つを同時に行うのは,明らかに間違っている。両者は求められるスピードが違うからだ。
救済は早さが求められる。強制不妊手術の被害者は,高齢化している。 2018年からの各地の訴訟の間にも,数人亡くなっている。当事者が生きている間に十分な救済を行うことは国として当然である。
一方,優生思想の根絶は ,優生思想をもつ政治家,官僚,公務員,そして私たち市民の考えを変えることであり,相当地道に取り組まなければならない。優生保護法は,障害者差別のみならず,「生まれてはいけない」とされた子ども、あるいは「子どもをもってはいけない」とされた外国人やハンセン病の人などにも、被害をもたらした歴史がある。1948年に優生保護法が制定されて以来、近年まで同法に基づく強制不妊手術が問題として扱われてこなかったことは,優生思想を支持する人が大多数であったことを物語る。優生思想の根絶には,計り知れないエネルギーを必要とする。国はそれを分かっているのだろうか。